傀儡の恋
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「……二機?」
天空から降りてきたのは一機だけではない。その機影は二つあった。
『一機はオートのようです』
キラがこう言ってくる。
「ならば、そちらにラクス嬢が乗り込んでいるのかな」
それとも、と考えたところでラウはため息をつく。
「どのみち、一機は無人のまま回収しなければいけないだろうね」
それは厄介かもしれない。心の中でそう付け加えた。
『どうしますか?』
「君が新型を使えるのであれば乗り換えるといい。最悪の場合、ラクス嬢にストライクを確保してもらって私が護衛しよう」
それが一番早いだろう、とラウはいう。
『大丈夫ですか?』
「本土に着いてしまえばなんとかなるだろう。アスランに押しつけてしまえばいいだけだからね」
その後は知らない、と彼は笑った。
『そうですね』
キラもそれに反論してこない。どうやら、彼もアスランとは一線を画するつもりなのか。それとも、ラクスに任せておけば安心だと思っているのか。
おそらく後者だろうと思う。
「バルトフェルドさんが一緒なら何の問題もないのだがね」
だが、彼は来ないだろうという確信がある。
おそらく、今回の決着は地球上ではつかない。月にいる地球軍と時婦リースの問題もある。
宇宙でなければ無理だ。
それがわかっている以上、彼はその足がかりを作るためにも宇宙にいなければいけない。
他のパイロットという可能性もあるが、自分が考えているとおりの性能の機体であるならば、扱える人間は限られてくる。そんな人間をよこせるほど人員に余裕はあるとは思えない。
それらを鑑みれば答えは自ずから出てくる。
もちろん、キラもわかっていたようだ。
『来てくれればありがたいのですが、無理でしょうね』
小さなため息と共にこう言い返してくる。
『色々と相談に乗ってほしいこともあるのですが』
彼はさらに言葉を重ねた。
「今回のことが終わればしばらくは時間がとれるだろう。その時になんとかならないか、確認すればいい」
ネオのことであるならば、自分は役に立たない。そう判断してこう言った。
『そうします』
キラがこういったときだ。センサーに反応がある。視線を向ければこちらに向かって降下してくる光点が確認できた。
「さて……後はザフトが押し寄せてくるまでどれだけ余裕があるか、だね」
あれは当然あちらにもとらえられているはずだ。
『最初に来るのは偵察でしょうか』
キラが言葉を口にする。それは問いかけではなく確認だ。
「だろうね」
ラウは同意の言葉を口にする。
「心配はいらない。来るのは一般のパイロットだ。ここにはあれら以外君と互角に戦える者はいないよ」
殺さずにすむだろうね、と言外に付け加えた。
『だといいのですが……』
「あちらにしてもオーブを屈服させられるかどうかの瀬戸際だ。うかつな行動はとれないだろうね」
あちらにはまだカガリ達がいる。それに地の利もある以上、うかつなことはできないはずだ。
「我々が迅速に戻ればそれだけで勝機が見えるよ」
蛇足だが、と付け加える。
『わかっています。あぁ、通信が入りました。やはりラクスですね』
キラから報告が届いた。
「では、少しでも早く合流しよう」
『えぇ』
その言葉を聞きながらラウは空を見上げていた。